―なんか知らないけど調理師学校に入ったんです。最初はパンをやるっていう意識はなかったですね。―
パンふぉ:経歴を見て不思議に思ったのが、パンがあんまり好きじゃないということと、大学に入って中退して調理師学校に行かれたという点なんですが。
パンテコ松岡さん:よくご存知ですねーー(笑)
パンふぉ:いやあ。少しインタビュー前に勉強しました。まず、何故、学校を中退してまで調理師学校へ行くことになったのかなと思って。
松岡さん:えーーっと。。。。(笑いながら)話せば長くなるんですが。
パンふぉ:今日は松岡さんのいろいろな部分のヒミツを探るというか、根掘り葉掘り聞いてしまうかもしれないのですが、よろしくお願いします!
松岡さん:(覚悟を決めたように)えっとね。僕ね。大学時代に彼女がいましてね、心臓病だったんですよ。それで学校に行かずに働いて、彼女の手術代をためたんです。1年間で300万。
パンふぉ:1年間で300万はすごいですね!
松岡さん:それを使う前に彼女が亡くなってしまって、二人の夢が店をやりたいということだったので、吉祥寺に喫茶店のようなを店を借りたんです。そしたらそこが立ち退きになってしまったんです。それでまたお金が入ってきたんですけど、そのお金をどうしたらいいか分からないんですよ。それで学校でも行って腕をまずつけようと考えたんです。で、東京にいると実家に甘えるのでそれで関西の学校に行ったんです。誰も知らないところなら、自分ひとりで生活しなければいけないですし。で、なんか知らないけど調理師学校に入ったんです。だから、最初はパンをやるっていう意識はなかったですね。
―それが、パンの怖さなんです。発酵と熟成のマジックにハマった!ー
パンふぉ:彼女のために学校にも行かず働くなんて。すごい熱いというか、素敵なお話ですね。調理師学校を卒業された後は神戸のビゴさんのお店で働かれたそうですね。
松岡さん:そう。オープンして1年目だから、ビゴさんが調理師学校から採った第一期なんです。その年10人くらい入ったんですけど、1年経って残ったのは2人でした。(当時の修行はかなり厳しかったようです・・・・(>_<))
パンふぉ:その時は22歳とか、そのくらいですよね。
松岡さん:そうですよ。一番年上なんですよ。同期の中では。
みんな高校卒業してすぐ調理師学校へ行っているわけですから。でも、その前に1年間ずっと働いていたので、長時間労働も気にならないし、自分の身につくから別に給料はどうでもいいと思ってました。その為に学校に行ってますから。もう引き返せないですよ。自分が帰るところを捨てて行っているわけだから。今ここで辞めたらまた笑われちゃうみたいな。
パンふぉ:でも元から『自分はパンが好きなんだ。パン職人になるんだ』という志を持って行ったんだったら分かるんですけど・・・
松岡さん:それが、パンの怖さなんです。ぜんぜん嫌いなものを作ってみるとこんなに難しいものはないって感じるわけじゃないですか。で、嫌いなもんだから、自分が好きなパンを作っているわけですよ。好きな人だったら何でも美味しいんだろうけど、僕は美味しくないからより美味しいものを求めちゃうわけですよ。
パンふぉ:で、やっているうちにどんどんハマっていったという感じでしょうか。
松岡さん:ハマりますねー。
パンふぉ:渡邉さんと共著された『輝けフランスパン』を以前読ませて頂き、他の本にも共通して発酵の大切さを強く書いておられると感じたのですが。
松岡さん:発酵と熟成ですね
パンふぉ:発酵と熟成のマジックにハマったという感じでしょうか。
松岡さん:そうです。化学ですね。
パンの美味しさっていうのは、昔の日本人はふくらんでるとか柔らかいとかで、『旨み』ってなかったじゃないですか。発酵食品って『旨み』が命なんですよ。すべて。
酒でもワインでも旨みとか香りとか風味とかそういう部分が強いじゃないですか。
何故そうかというと、発酵することによって有機酸を出すわけですよね。そして有機酸が旨みを出すんです。 元々、パンの材料は塩と水と粉だけ。
そこにバター、卵、砂糖などをいっぱい入れてしまえば旨いのかもしれないですけど、フランスパンなんかは元々塩と水と粉だけじゃないですか、そこで旨みが出てくるということ自体がとても不思議ですよね。
(発酵と熟成のマジックについてはまだまだ興味深いお話が続きますが、このくらいにしておきます。“輝けフランスパン”の中でかなり詳しく分かりやすくかかれていますので、是非購入して読んで頂きたい本です!パンふぉ推薦図書(*^^)vamazonへ )
パンふぉ:他のパン屋さんのパンを買って食べて勉強することもありますか。
松岡さん:しますけどね。今は技術が進歩しているから、美味しいんじゃないですか。
パンふぉ:ライバルとしてここはすごいなというところとかありますか。
松岡さん:誰だろう・・・・むずかしいな。それぞれ特徴あるからねえ。みんなライバルですね。(笑)でも僕とちょっと年代離れちゃってるんで、今54ですから。50代のパン屋さんってそんなにいないんですよ。
―常に勉強。本に美味しいって書いてあるから美味しいんじゃないんだよ。ー
パンふぉ:社長である今も現場に入ってお仕事をされているんでしょうか。
松岡さん:うん。好きなんでしょうね。常に勉強してますからね。まだ完全なものじゃないです。人に教えるということもあるんですけど。15年くらい前だと年間で3人くらいうちにシェフが来ました。1週間勉強したいって。
パンふぉ:今、レストランで自分のところでパンを焼いているお店って結構ありますからね。1週間の修行の後は、お客様じゃなくなってしまうってことですよね。
松岡さん:まあ。いいんじゃないですか。面白いです。教えるのは好きですから。
やっぱり本当のこと知ってもらいたいじゃないですか。パンがどうやって出来て、どうしたらうまくなるかって。知ってくれた方がいいと思うんですよ。みんな。
ただ美味しい、まずいだけじゃなくて。
パン職人は・・・僕は、思うんですけど、食べる人の状況になってパンを作らないとダメなんですよ。第一にね。
買った人がいつ食べるのか分かるんだから、その時に美味しいものを作りなさいってことが1点と。もう1つは、ハマんなさいってこと。勉強しろってことですよ。自分が分かる、分かんないじゃなくて勉強しなければ面白くないってこと。ハマればハマる程面白くなってくるわけでしょ。その2つだけ今のひとに必要だと僕は思っている。
で、あまりにも今情報がありすぎて自分で情報を取りに行こうとしてない。情報を鵜呑みにしちゃってます。
パンふぉ:すでにある情報をそうなんだって思いこんでしまって、自分では調べたり、勉強したりしないってことですね。
松岡さん:コンピューターでもなんでもそう。
変換して間違えた漢字が出ても字を知らないから間違えたままにしちゃう。
情けないよね。
だからその基本的なところがまず自分で勉強するところだと思うんですよ。ナビゲーターなんて使わず、歩いて迷いながらたどりついた道ってすぐ覚えられるじゃない。なにげなく通っていると見てるような気になるけど、実はあんまり見てない。
ものを作るにもものすごく観察しなさいって。昔はベテランの職人を見て見習えって。見習いがどうやって一人前になるかって言うと感を養うんです。第六感。なんとなく自分はこう思うっていうものが産まれてくるんです。ものを見てると。本当はある程度になったら自分でそういう時間を作っていかなきゃいけないんですけど。
ぬるま湯に浸かっているとなかなか抜け出せない。いったんぬるま湯を抜けちゃって冷たいところに入っちゃうとあとはぜんぜん冷たくないんですけどね。
だから、何が美味しい、ここのパンが美味しいっていうのは自分が決めることであって、本に美味しいって書いてあるから美味しいんじゃないんだよって。ホントに若い人に勉強してほしい。
あと10年も生きらんないもん。我々は。(松岡さん、もちろんまだまだ現役で頑張ってくださると思いますが、パン業界全体だけでなく社会全体の後継者たちについて、とても心配しておられ、次の世代の私達に熱いエールを送ってくださいました。)
パンふぉ:最後に座右の銘があったら教えてほしいのですが。
松岡さん:座右の銘って訳じゃないんですけど、
『起きて半畳、寝て一畳』
人間はそれだけあれば生活して行けるって事、畳半畳で人間は起きてるし、寝ているときも1畳あれば充分ってことです。
パンふぉ:それ以上は必要ない。
松岡さん:そう。それ以上は必要ないです。ものの広さじゃなくて、自分の価値観。
パンふぉ:あーー。ズキンっとします。(一同爆笑)
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